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アラフォー女の日常・・・
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昨日、井上夢人の「ラバー・ソウル」を読了。
http://www.amazon.co.jp/dp/4062177137

この小説について詳しく書いてしまうと、いかなることもネタバレになってしまうから、うまく書けないけれども、読んで、最後に「やられた!」と思いました。

幼いころの大病のため、非常に醜い、どんな人も顔をそむけるような容姿になってしまった主人公。
ホウライエソという深海魚に似ているそうです。

大金持ちの家に生まれたので、引きこもった生活をしていても、生きるのには不自由しない、どころか高価な外車すら複数台持っていたりします。
ポップスに非常に詳しく、特にビートルズには、持っていない資料はほとんどない、複数の録音の違うレコードやインタビューや公には発売されていないものなど、なんでも持っている、持っていないのはサザビーズのオークションに出たいくつかのものだけだという徹底したビートルズファンなのです。

その知識を生かして、ポップス雑誌に評論を投稿するようになって、それからビートルズ評論を頼まれるようになる。

・・・それだけが社会との接点である、醜く孤独な男、鈴木誠が主人公です。

長い間、ポップス雑誌側が、一度会ってお話ししたいといっても、彼は応じなかった、一年ぐらい後、ようやく応じて編集室にやってきた彼は、目深な帽子とサングラスとマスクと、足元まで隠れるオーバーコートを着た異様な風体の男性でした。
「楽になさってください」と言われて、サングラスとマスクを外した、その風体に、編集者たちは息を飲む。

もちろん、大人なので、彼らは鈴木誠を嫌ったりせず、「独創的なビートルズ評論を書く人」として扱いました。
ただ、裏では、最初に書いたのように「ホウライエソに似ている」と言っていました。

それでも鈴木誠にとっては、人から普通に接してもらえることは初めての経験で、彼らから、撮影の小道具に持っている外車を貸してほしいという依頼に応じ、しかもそれを自分で運転して撮影現場まで運ぶと言い出したのです。

そこで、美しいモデル美縞絵里と出会い、彼女に執拗にストーキングするようになります・・・

物語の、15/16までは、鈴木誠が執拗に美縞絵里をストーキングする様子が描かれています。
「今まで女性に相手にされることのなかった醜い男が美しい女性をターゲットにストーカーとなる」・・・本当に、絵に描いたような変質者、ストーカーなのです。

その、いかにもと思えるストーカーぶりに、多少の違和感を感じながらも、鬼気迫る描写にぐいぐい引き込まれてしまいます。

最後の1/16で、大きなどんでんがえしが。

この作品の評価は、主人公がそこまで美縞絵里を愛していたのに納得するかどうか、にかかっています。

美縞絵里は、どう考えても愛するに値する女ではない、とっても嫌な女です。

でも、ある意味、鈴木誠に対して、一番正直な対応をしたと思っています。

ここから先はネタバレになってしまうので、折りたたんでおきます。



サングラスとマスクをしていても、まっすぐ立つことができない鈴木誠は、異様な雰囲気を漂わせてるわけです。
たいていの人が避ける、近づく人がいてもすぐそばまでくると逃げていく、一度身障者だと思った親切な人が彼に手を貸そうとして近づいて、コートの隙間から見えた首の皮膚をみて悲鳴を上げて逃げて行ったそうです。

父親は、息子の誠のことを、「天が俺に与えた最大のペナルティ」と言ったそうです。

そこまで醜い容姿を持った鈴木誠にとって、アクシデントとはいえ、美縞絵里を助手席に乗せて送った、ここまで人と近い距離で接したことがなかったのです。

そのとき絵里は、事故で親友をなくして放心状態で、鈴木誠の風体など気にしていられなかっただけなのですが、鈴木誠にとっては初めてで唯一のこと・・・

それが、鈴木誠が、絵里の殺人の罪をかぶる決意をするほど愛する理由か、といえば、作中ではそう語られていますが、私はそうは思わないです。

物語の非常に最後の部分、鈴木誠と絵里が、口裏を合わせるために車の中で話をしている録音を聴く場面で、
「――わかった。あのさ、悪いけどそっちのウィンドウも開けてくれる?あんたと喋ってると息がつまってくる。」
と絵里は言っています。

蓮っ葉で嫌な女だからこそ、こんなずけずけとした本音を言えるわけです。

しかも本音を言いつつ、つまり鈴木誠を気持ち悪いと認識しつつ、一緒の社内で会話しているわけです。

ただ単に、偶然に助手席に乗ったわけではない、彼女の意思で助手席に乗り、鈴木誠を認識して会話している――鈴木誠にとって、絵里が真に大事な女性になったのはむしろこのときではないかと思うのです。

さらに、最後、鈴木誠の本当の顔を見た絵里は、悲鳴を上げて彼を刺してしまう。

これは、彼の本当の姿をみて、表面では独創的なビートルズ評論の書き手として扱いながら、裏で「ホウライエソ」といっている音楽雑誌編集部の人たちより、正直な対応なのではないか、と思いました。

彼に、ここまで正直な対応をしてくれる人は、今までいなかったのです。

父親でさえ、「人生最大のペナルティ」などと言いながら、彼を生かしている。
そこまで言うなら殺せばいいのに、金だけは与えている。

美縞絵里だけが、彼の姿を見て、正直に、殺してくれたわけで、鈴木誠にとっては幸せな最期だったのだ、ということがすとんと胸に落ちてきました。
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素晴らしい
相変わらずるーかんさんの文章は読ませますね。
その辺の書評より、よっぽど読ませます。
あんまり、文章が凄いので、うっかりネタバレまで読んでしまいました。
でも、読もうっと!


Posted by 落合春美 2012.09.11 Tue 06:02 編集
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